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インダンジオン二量体の結晶多形間における分子の取込/脱離に基づく可逆な構造変化

Guest Release/Trap-triggered Interconvertible Molecular Crystals of Indanedione Dimer

結晶化溶媒を取り込んだ分子性結晶からの溶媒分子の脱離は,しばしば結晶性の劣化・秩序構造の崩壊につながる。一方,溶媒分子の脱離後も高い結晶性を保ち,かつ再度の分子取り込みが可能なものは新たな結晶性ホストとして注目を集めている1)。特に分子の取込/脱離前後で劇的な構造変化を伴うタイプの報告例は極めて限られている2)
最近筆者らは,ねじれたX字型構造を有するピリジン置換インダンジオン二量体(4PID)結晶が,劇的な構造変化を示す結晶性ホストとして高いポテンシャルを有することを報告した3)。図に示すように4PIDは結晶化の際にアルコール等の極性分子が存在すると各分子がタイトに組み合わさったCLOSE構造を与える。一方,ヘキサンなどの低極性溶媒を少量加えると,これらの溶媒を取り込んだ一次元チャネルを有するOPEN構造を与える。このOPEN構造内には多種多様な分子を導入することが可能であり,特に鎖状分子が取り込まれやすい。さらにこれら2種類の結晶は,劇的な構造変化を伴うにもかかわらず結晶状態を保ったままゲスト分子の吸脱着により可逆に変化する。インダンジオン二量体の骨格中心に存在するC-C結合は,外部刺激添加によりホモリティックに開裂・再結合することが知られており,この可逆的な現象とホストゲスト相互作用を組み合わせた新たな機能性結晶としての展開に興味が持たれる。

chem74-1-02.jpg 1) R. Cao et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2016, 55, 9474.
2) H. Yamagishi et al., Science 2018, 361, 1242.
3) Y. Yakiyama et al., Chem. Commun. 2020, 56, 9687.

燒山佑美 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻