日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >無機化学 >過酷環境で駆動する堅牢な分子認識エレクトロニクス

過酷環境で駆動する堅牢な分子認識エレクトロニクス

Robust Molecular Recognition Electronics Under Harsh Enviroments

過酷環境(高温・高湿等)で堅牢に機能する金属酸化物ナノ構造の表面設計と表面吸着分子の状態解析は,不均一系固体触媒,分子認識センサエレクトロニクス等の幅広い研究分野で重要な研究トピックスである。筆者らは空間選択的な固体結晶成長メカニズムに基づいて,原子層レベルで金属酸化物ナノワイヤ構造と表面微細構造を制御し1~3),そのナノワイヤ表面に吸着した分子のコンフォメーションを解析する手法を報告してきた4)。得られた情報(表面吸着分子とナノ構造表面との相互作用)とナノ構造を用いた分子識別デバイスの電流応答との相関性を見いだし,分子識別性を最大化するナノ構造表面設計指針を得ることが可能になっている4, 5)。一例として,単結晶ZnOナノワイヤとカルボニル基を有する揮発性分子群の系では,従来の報告では表面酸化反応が支配的とされていたが,分光学的に表面化学反応を追跡すると,アルドール縮合反応が支配的であり,ナノワイヤ表面(m面)に存在するZnサイトの露出割合がその反応を決定していることを明らかにした4)。これらに基づいて,ナノワイヤ表面Znサイトをメチルホスホン酸で修飾することで,縮合反応を劇的に抑制し,カルボニル基を有する分子群に対するセンサ特性を向上させることに成功している5)。このように,固体表面の分子レベルでの精密設計と分子/固体表面間の情報を組み合わせることによって,酸化物ナノ構造表面化学反応を制御し,堅牢であるが精密に分子情報を電流識別する分子センサエレクトロニクスへと発展することが期待される。

chem74-02-01.jpg


1) H. Anzai et al., Nano Lett. 2017, 17, 469.
2) H. Anzai et al., Nano Lett. 2019, 19, 1675.
3) Z. Xixi et al., Nano Lett. 2020, 20, 599.
4) C. Wang et al., Nano Lett. 2019, 19, 2443.
5) C. Wang et al., ACS Appl. Mater. & Inter. 2020, 12, 44265.

柳田剛 東京大学大学院工学系研究科