ロドプシンは幅広い生物種が持つ,光受容型の膜タンパク質である1)。このうちヒトなどの動物の網膜中で視覚の受容体としてはたらく動物ロドプシンは,1876年に発見された。その約100年後の1971年,高度好塩古細菌などの微生物が動物ロドプシンとは進化的に独立したロドプシンを持つことが明らかとなり,微生物ロドプシンと名付けられた。現在では原始的な生物種が持つ微生物ロドプシンはType-1,高等動物が持つ動物ロドプシンはType-2ロドプシンとも呼ばれる。
これらは7回膜貫通構造の中央に共通の発色団であるレチナールを有するが,微生物ロドプシンはレチナールが全トランス型を,動物ロドプシンでは11-シス型を取る。またそれぞれの分子機能は大きく異なり,微生物ロドプシンの多くは光を吸収すると様々なイオンを運ぶのに対し,動物ロドプシンはGタンパク質共役型受容体の一種として,細胞内のヘテロ三量体Gタンパク質を光依存的に活性化する。
長らく自然界のロドプシンはこれら2種類に大別されると考えられてきたが,2018年に筆者らを含めた国際共同研究により,既知のものとは異なる第3のロドプシンが存在することが明らかとなり,ヘリオロドプシン(HeR)と名付けられた2)。HeRは細菌・古細菌・真菌類・藻類から巨大ウイルスまで幅広く存在し,既存の2種類に対して膜内での配向が逆転しているという特徴を持つ。しかし,いまだHeRの機能は解明されておらず,今後の研究により,新たな光生物学的役割が明らかになると期待される。
1) O. P. Ernst et al., Chem. Rev. 2014, 114, 126.
2) A. Pushkarev et al., Nature 2018, 558, 595.
井上圭一 東京大学物性研究所