日本化学会

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窒素酸化物からアンモニアへの変換反応

NOx to Ammonia Reaction

内燃・外燃機関で機械エネルギーを取り出す効率を上げるには,高温で燃焼させるのが一般的な方法である。高温燃焼はエネルギー当たりの二酸化炭素(CO2)発生量を減らせるが,同時にサーマルNOx(窒素酸化物)が多く発生することになる。NOxを化学的に処理するには触媒と還元剤を用いて窒素分子(N2)にまで還元するのが一般的であり,三元触媒や尿素を用いた選択触媒還元脱硝(Selective Catalytic Reduction)はその最も有名な例だろう。
これに対して,NOxをN2以外の分子へ触媒的に変換する研究が注目されている。例えば窒素酸化物からアンモニアへの変換反応(NOx to Ammonia(NTA)反応)は(図),1990年代からPt系の触媒によって進むことが報告されてきた1)。当時はN2への還元の中間体としての観測だったが,今はNH3を作ることに焦点が合っており2),Pd,Fe,Cuなどの担持触媒でも反応が促進されることが報告されている。「N」を工業的に有用なNH3として再利用することを考慮すると,N2への還元とは異なり強固な三重結合を復活させないため,窒素の循環利用に有用であると考えられる。
窒素の循環利用も近年急激に話題に上がるようになった研究である。発端はRockströmらの提唱したプラネタリー・バウンダリーの概念3)で,欧州での注目度が特に高い。国内でもムーンショット型研究開発制度の「窒素化合物を回収,資源転換,無害化する技術の開発」に2件のテーマが採択されているように,注目されている研究分野である。
先のエネルギー・CO2・NOxの三者の関係では「彼方を立てれば此方が立たず」を触媒の力で解決した。窒素の新たな循環活用方法も化学の力で解決されると信じている。

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1) Y. J. Mergler et al., Appl. Catal. B 1997, 12, 95.
2) K. Kobayashi et al., Catal. Sci. Technol. 2019, 9, 2898.
3) J. Rockström et al., Nature 2009, 461, 472.

眞中雄一 産業技術総合研究所