触媒活性種を中空構造体の内部に閉じ込めた材料はヨーク-シェル構造触媒とも呼ばれ,優れた反応場を提供する触媒としての利用が検討されている1)。従来,触媒担体として利用されているミクロ細孔・メソ孔を有するシリカ多孔体と異なり,直径数十~数百nmの中空シリカ空間内部には,高分子や生体分子といった巨大分子を内包できる。また,その制限空間に由来し,特異な反応促進効果や触媒耐久性,分子選択性が発現する。
これまで中空シリカの中空空間は反応物の吸着と拡散を促進する場と捉えられてきた。筆者は,ここに機能性高分子を充填することで活性や選択性に優れた「ナノリアクター」が合成できることを報告してきた。中空シリカにCO2吸着能を有する含窒素高分子(PEI: Poly(ethyleneimine))を水素化能を持つPdナノ粒子とともに充填すると,これらの協同効果によりCO2を高効率にギ酸へと変換できる2)。PEIによって表面被毒されたPd粒子はアルキンの部分水素化反応において優れた選択性を示すが,中空シリカに閉じ込めると選択性が長時間維持されることがわかった3)。いずれの場合も堅牢なシリカシェルの保護効果により内包された活性種の凝集や溶出がなく,再利用性にも優れている。
フラスコに必要な試薬を入れて化合物を合成するように,中空シリカのナノ空間に触媒機能を集積化すれば,ターゲットとする分子を選択的に取り込み目的分子へと高効率に変換する「ナノリアクター」の実現も夢ではない。
1) R. Purbia et al., Nanoscale 2015, 7, 19789.
2) Y. Kuwahara et al., ACS Catal. 2020, 10, 6356.
3) Y. Kuwahara et al., ACS Catal. 2019, 9, 1993.
桒原泰隆 大阪大学大学院工学研究科