日本化学会

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自然免疫受容体DCARを強く活性化する結核菌由来の複合糖質分子

A Glycoconjugate from M. tuberculosis as an Innate Immune Receptor DCAR Ligand

微生物由来成分の認識や炎症に関わり免疫機構を活性化する自然免疫受容体は,四半世紀前に初めて見いだされて以来,現在も新しい受容体やそのリガンド・機能の発見が続いている。その中でもC型レクチン受容体(CLR)は,糖鎖を認識するレクチンの一種であるCa結合タンパク質として,免疫細胞上に発現し,種々の糖鎖構造あるいは複合脂質構造を認識して免疫機構を活性化・抑制する。CLRの一種であるDCARは,山崎らによって見いだされ1),結核菌由来のホスファチジルイノシトールマンノシド(PIM)化合物を認識して炎症性サイトカイン等を誘導し免疫機構を活性化する。最近,そのリガンド認識部位のX線結晶構造が明らかとなり,PIMの極性部位(イノシトール-マンノース[Man])がDCARのCa周辺の残基と相互作用することが明らかとなった2)。また,PIM化合物の1つであるAc1PIM1の合成法確立とその構造活性相関より,リガンドとして報告されていたAc1PIM2(図右:全体構造)の中でも,特にAc1PIM1部位(図中,点線で囲まれた部位)の活性が高く,AcPIM関連化合物においては活性本体と推測されることが示された3)。また最近,ピロリ菌由来のDCARリガンドも発見されており4),今後のDCAR研究のますますの発展が期待される。

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1) K. Toyonaga et al., Immunity 2016, 45, 1245.
2) Z. Omahdi et al., J. Biol. Chem. 2020, 295, 5807.
3) Y. Arai et al., Org. Biol. Chem. 2020, 5, 182.
4) M. Nagata et al., J. Exp. Med. 2021, 218, e20200815.
藤本ゆかり 慶應義塾大学理工学部化学科