メタンは,シェールガス革命によって安定かつ安価に供給可能となったことから,ブリッジ・エネルギーとしての役割が期待されているが,最近では,再生可能エネルギーであるバイオマスからも製造可能であることから,メタンは,カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に資するキープレーヤーと言っても過言ではない。近年のSDGsに対する意識の高まりからも,化学原料をナフサからメタンへシフトすることは必然であると思われるが,メタンの反応性の低さと変換後の生成物の反応性の高さから,メタン変換反応は,最高難度の反応として知られており,ゲームチェンジャーとなりうる新技術の開発が期待されている。本研究では,常温・常圧でメタンをメタノールに酸素酸化するメタンモノオキシゲナーゼと呼ばれる天然の酵素を範とし,その活性種と提案されているFeIV2(μ-O)2コアをモデル化した[RuIV2Cp*2(μ-O)2]2+ (Cp*=pentamethylcyclopentadienyl) を合成し,この錯体に光エネルギーをインプットすることによって,メタンをメタノールとホルムアルデヒドに酸素酸化することに成功した1)。[RuIV2Cp*2(μ-O)2]2+は,水中で[RuIICp*(H2O)3]2+にO2を反応させることで容易に合成可能であり,室温でも安定である。密度汎関数法を用いた理論計算によると,光励起した[RuIV2Cp*2(μ-O)2]2+のオキソ配位子のラジカル性がメタンからの水素原子引抜きの要因であると予測されている。今後は,このような有機金属錯体の光励起状態を利用して高難度の分子変換反応にチャレンジしていく。
1) 松本崇弘,中野龍也,村上雅人,鮫島 皓,木村健人,西川 諒,光駆動型燃料電池,そのカソード向け触媒,そのアノード向け触媒,及び,メタンをメタノールに変換することを含むメタノール製造方法,特願2020-089162.
松本崇弘 九州大学大学院工学研究院応用化学部門