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有機フッ素化合物の合成:より環境に優しく,安全に!

Enviromentally Benign and Safe Synthesis of Organofluorine Compounds

有機フッ素化合物は,フッ素原子の特異な性質により,自動車,家電製品,医農薬などの実用面で大いに役立っている。その一方で,フッ素は,フロンのオゾン層破壊,ペルフルオロオクタン酸(PFOA)などの環境中での残留懸念などの負の側面を有している。フッ素化合物の製造において,環境や安全を配慮した手法の開発が望まれている。
21世紀に入ってからの有機フッ素化合物合成の進展は目覚ましい。2001年にDuPont社のSubramanianとManzerによって,フッ化銅(II)を利用するベンゼンの求電子的フッ素化が報告された1)。550℃でベンゼンをCuF2と反応させることにより最高30%の収率でフルオロベンゼンを得るとともに,CuF2の再利用にも成功した。この10年余りの期間で,アカデミック界から,触媒的フッ素化やトリフルオロメチル化などの新反応が次々と報告され,有機フッ素化合物の触媒的合成法の開発が急速に発展した2, 3)。フッ素化合物の合成には取扱困難なフッ素化剤を用いるが,フロー法によって選択的で安全な反応が編み出されている4)。フッ素系ポリマー製造に際して副生するフルオロホルムなどの産業廃棄物を有用なフッ素化合物に変換するリサイクル技術も注目を浴びている5)。今後も環境と安全に配慮した反応が期待される。

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1) M. A. Subramanian et al., Science 2002, 297, 1665.
2) H. Amii et al., Org. Synth. 2016, 93, 147.
3) T. Koike, M. Akita, Chem 2018, 4, 409.
4) S. V. Ley et al., Tetrahedron 2009, 65, 6611.
5) N. Shibara et al., Sci. Rep. 2018, 8, 11501.

網井秀樹 群馬大学大学院理工学府