日本化学会

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キラル発光色素の円偏光発光


Circular Polarized Luminescence from Chiral Emissive Dyes

キラルな発光色素は,左右円偏光のどちらか片方を強く発光する性質を持ち,円偏光発光(CPL)強度の偏りは非対称因子(gCPL=2(ILIR)/(ILIR))として評価される。片方の円偏光のみを高効率かつ選択的に発光する分子(gCPL=±2)を設計できれば,円偏光モードを利用した次世代のキラル分子デバイスや光情報通信素子への応用が期待できる。
物質が光を吸収および発光する際には,光(電磁波)の電場振動と磁場振動の両方が光吸収・発光現象に関与する。一般的な有機色素では電場振動に由来する寄与が磁場振動よりも十分に大きい。この光物理的な背景から,従来の発光性有機色素の開発では,最低エネルギー励起状態からの遷移が「電気的に」許容となる分子設計指針が広く用いられてきた。一方で,キラル発光色素のgCPLを最大化するためには「電気遷移と磁気遷移の強度を等しくする」ことが必要である。
近年,筆者らは最低エネルギー励起状態からの遷移が「磁気的に」許容となる分子設計に基づいて,高い発光性と高いgCPLを両立する[7]ヘリセン誘導体の合成に成功した(図a)1, 2)。さらに,遷移磁気双極子モーメント(TMDM)密度を可視化する手法を用いて,大きな磁気双極子強度を達成するための分子設計指針を得ることに成功した(図b)。今後の研究により,片方の円偏光のみを選択的に発光するキラル色素の開発が期待される。

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1) T. Hirose et al., J. Phys. Chem. Lett. 2021, 12, 686.
2) T. Hirose et al., Org. Lett. 2020, 22, 9276.

廣瀬崇至 京都大学化学研究所