日本化学会

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プラズモニック・エンドスコピーによる単一細胞内分析・操作

Plasmonic Endoscopy for Single-cell Interrogation and Manipulation

生命現象の根本を担う細胞の中では,様々な生命物質が存在し,あらゆる分子相互作用や化学反応が常時起こっている。それらの相乗効果として細胞はその機能を発揮している。すなわち,これらを詳細に解明し操作することは,生命の謎に迫る鍵となりえる。
筆者らは,直径100 nm以下の貴金属ナノワイヤーを利用することにより,生きた単一細胞内部での分光解析と,遺伝子導入などの細胞操作を可能とする「単一細胞内視鏡法」を提案してきた1, 2)。金や銀など貴金属で構成されるナノワイヤーはプラズモン導波路として利用できる3, 4)。図左のようにナノワイヤーを細胞内部に挿入することで,細胞外部から導波路を通じて光を送り込むことができ,細胞内部のラマン散乱や蛍光を局所的に励起することが可能となる1)。図右は,生きたがん細胞の核内にまでワイヤーを挿入して核内のラマンを連続で取得したスペクトル群である。ワイヤー先端数十nmの領域からのみのラマンが励起されているため,その領域に拡散してきた生体分子のラマンが得られるため,ダイナミクスも検出される。本手法を用いることにより,少数分子,例えば抗がん剤分子とDNAなどの生体分子との相互作用や,液液相分離によって発生する非膜性オルガネラ内の化学相互作用などの生きた細胞内部での解析を進めている5)

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1) G. Lu et al., Adv. Mater. 2014, 26, 5124.
2) M. Ricci et al., Anal. Chem. 2021, 93, 5037.
3) L. Su et al., Nat. Commun. 2015, 5, 6287.
4) J. A. Hutchison et al., Nano Lett. 2009, 9, 995.
5) Monica Ricci, PhD thesis, 2021, https://lirias.kuleuven.be/3234709?limo=0

雲林院宏 北海道大学電子科学研究所