日本化学会

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生体膜曲率認識タンパク質の探索

Proteomic Exploration of Membrane Curvature Sensors

複雑に変化する細胞膜構造の制御には,脂質成分の局在性・非対称性,細胞骨格の作用などに加えて,生体膜の曲面構造(曲率)を識別し,局在する"曲率認識タンパク質"の重要性が示されている1, 2)
筆者らは,粒径の異なる球形SiO2粒子を細胞膜脂質成分で被覆した曲面生体膜構造をもつ球形材料(SSLB : Spherical Supported Lipid Bilayer)を利用することで,曲率認識タンパク質を簡便に同定できる手法を開発した(図1)3)
まず,様々な曲率をもつ安定な曲面生体膜を調製するために,足場となる粒径の異なる球形SiO2粒子を用意し,細胞膜を構成する脂質成分で被覆した。これにより曲率が異なる(粒径の異なる)安定なSSLBを調製した。次に,正常細胞(ヒト皮膚線維芽細胞:NHDF)およびがん細胞(ヒト乳腺がん細胞:MDA-MB-231)の表在性膜タンパク質液を調製し,様々な粒径のSSLBとの共沈試験を行った。ここで各SSLBに結合したタンパク質を質量分析装置で比較定量解析した。その結果,曲面膜構造の違いによって結合量が変化する曲率認識候補タンパク質として,既知の曲率認識タンパク質(AP2複合体やクラスリンなど)を含む118個が同定された。中でも23個はがん細胞に優位に高発現していることが確認されており,新たながんマーカーとなり得ることが示唆された。本研究で同定された曲率認識タンパク質の詳細な機能解析によって,細胞機能の発現や疾病に深く関与する曲面生体膜構造の制御機構の理解が進むと期待される。

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1) M. Simunovic et al., Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 2019, 35, 111.
2) S. Gowrisankaran et al., Nat. Commun. 2020, 11, 1266.
3) M. Tanaka et al., Anal. Chem. 2020, 92(24), 16197.

田中祐圭 東京工業大学物質理工学院