無機半導体のクリスタルエンジニアリング技術が洗練されているのに比べて,有機半導体は結晶成長条件をブラックボックスにしたトライアル&エラーに基づいている印象が拭えない。望むようなサイズ,形,成長する方位,結晶性の単結晶を得るためにも,ボトルネックとなる要因を特定することが望まれていた。
筆者らは結晶成長条件を体系的に知るために有機半導体分子の相図を基本に立ち返って作成した(図1)。チエノアセンのアルキル誘導体がバルク溶液相に比べて気液界面で結晶化が容易に起こることを見いだした1)。分子のアルキル鎖に由来するGibbs吸着による界面濃縮によると考えられる。
従来の溶媒を高温で乾燥させる以外にも,室温付近で穏やかに液相結晶成長させることが可能になった。筆者らは成形と除去が容易なアガロース物理ゲルキャピラリーを用いてキャピラリーの形に沿った単結晶を得ることに成功した2)。
有機分子の多様性は結晶成長を複雑にする。ほかの例として,有機ハロゲン化鉛ペロブスカイト材料では逆温度結晶化が挙げられる3)。これら有機分子の特徴を相図に基づいて体系的に理解できれば,より洗練された有機分子のクリスタルエンジニアリング技術の創出が期待できる。
1) S. Watanabe et al., Langmuir 2017, 33, 8906.
2) S. Watanabe et al., Crystal Growth Des. 2019, 19, 3410.
3) M. I. Saidaminov et al., Nat. Chem. 2015, 6, 7586.
渡邉 智 熊本大学大学院先端科学研究部