日本化学会

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抗SARS-CoV-2抗体の簡易定量法

Quick Quantification of Anti SARS-CoV-2 Antibody

2019年12月に最初に報告されてより現在まで,新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は全世界に感染を拡大している。Covid-19を引き起こすウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンの接種がすでに全世界的に進行している一方で,中和抗体価の減衰や,より感染力の強い変異型ウイルスが報告されており,Covid-19の終息にはまだ長い時間を要すると考えられる。
Covid-19の検査には主にSARS-CoV-2そのものを計測とする「抗原検査」と,抗SARS-CoV-2抗体を計測する「抗体検査」がある。Covid-19の診断では抗原検査が主であり,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法が一般的に用いられている。一方で抗体検査は,診断では補助的にしか用いられない。しかし,ワクチンやほかの治療法の開発において,それらの効果を簡便かつ定量的に評価する手法として必要性が高まっている。
簡易的な抗体検査ではイムノクロマトが用いられることが多いが,これまでは感度・精度が低く定性的なものだった。イムノクロマト法改善の一例として,LiuらはSiO/Agナノ粒子を用いた表面増強ラマン分光を検出に利用し,感度・精度の大幅な改善を報告した1)
また,西山らはポータブル蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)装置を用いて約20分で抗体を定量する手法を報告した2)。Covid-19患者の血清を用いて,感染の陰性/陽性を高い感度・特異度(AUC=0.965)で判定できた。これらの簡易的な抗体定量法により,治療法開発を効率化できると期待する。

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1) H. Liu et al., Sens. Actuators B Chem. 2021, 329, 129196.
2) K. Nishiyama et al., Biosens. Bioeng. 2021, 190, 113414.

福山真央・火原彰秀 東北大学多元物質科学研究所