古来よりバイオマスを加熱炭素化して得られるバイオ炭(いわゆる炭)は世界中で利用されてきた。従来,バイオ炭は燃料として身近な生活の中でありふれた物資として使用されてきたけれども,生活様式の変化に伴い燃料としての使用量は大きく減少している。しかし,2019年に開催された第49回IPCC(気候変動に関する政府間パネル)総会において,農地や草地に施用したバイオ炭の土壌への炭素貯留が述べられた1)。大気中のCO2を吸収して成長したバイオマスを原料とするバイオ炭が土壌で分解されずに貯留されれば,結果として大気中のCO2を低減して気候変動緩和に貢献することになる,という考え方である。日本では,CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度である,J-クレジット制度の方法論として2021年に「バイオ炭の農地施用」が規定された2)。このように気候変動緩和に貢献する新たな価値がバイオ炭に見いだされている。また,工業材料としての炭素材料の原料としてバイオ炭を利用する研究が盛んになりつつある3)。バイオ炭は,バイオマスの微細構造や組成を活用した機能材料の原料としてだけではなく,未利用バイオマスを活用することで化石燃料の利用を抑制し,結果として環境問題の解決に寄与できる材料である,との認知も広がってきている。今後,新たな観点からバイオ炭に関する研究が活発になると考えられる。
1) IPCC Special Report on Global Warming of 1.5℃(SR15) 2019, Chapter 4, p. 345.
2) https://japancredit.go.jp/pdf/methodology/AG-004_v1.2.pdf
3) W.-J. Liu, H. Jiang, H.-Q. Yu, Energy and Environmental Science 2019, 12, 1751.
坪田敏樹 九州工業大学大学院工学研究院・物質工学研究系