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超高濃度漂白剤で環境に優しい酸化処理を実現

Concentrated Bleach Crystals

塩素系漂白剤といえば,次亜塩素酸ナトリウムが一般的であろう。水溶液は漂白・消毒のため各家庭で日常的に利用されている。工業用酸化処理においても,安価で,過酸化水素のような爆発的な反応の心配がなく,廃棄物は食塩のみで,作業環境に優しく魅力的だ。しかし,分解を防ぐため,pH約13の強塩基性の希薄溶液で流通しており,利用時には濃度の確認が必要である。また,高濃度域では安定性の観点から実用的でなく,大規模な合成には分が悪い。近年,結晶化した高純度な次亜塩素酸ナトリウム五水和物(NaOCl・5H2O)が上市された1)。淡黄色結晶,有効塩素濃度は42%,水溶液のpHは約11で,7℃で保存すると1年間は安定である。希薄な水溶液よりも効率的に酸化反応が進行し,しばしば高い収率と選択性を示すことが報告されている。次亜塩素酸ナトリウムを酸化剤とし,2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカル(TEMPO)などの有機ラジカル種を触媒とするアルコールの酸化反応は,第1級水酸基のみを選択的に酸化できる優れた手法である。ところがNaOCl・5H2Oを用いた場合には第2級アルコールも酸化でき,条件によっては無触媒でも酸化できる2, 3)。また環状ジオールの酸化的開裂にも有効で,一般にトランス体の環状ジオールは開裂させにくいが,本試薬ではシス体のジオールよりも円滑に進行する。次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた場合とは別の反応機構の存在を示唆しており興味深い。フェノール類の酸化的脱芳香族化4),(ジアセトキシヨード)アレーン類の合成にも活用されている。漂白・消毒以外にもご一考を。

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1) M. Kirihara et al., 有合化 2020, 78, 11.
2) M. Kirihara et al., J. Fluorine Chem. 2021, 243, 109719.
3) T. Hirashita et al., Synlett 2018, 29, 2404.
4) M. Uyanik et al., Nat. Chem. 2020, 12, 353.

平下恒久 名古屋工業大学