日本化学会

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触媒作用場としての結晶局所構造

Local Crystal Structure as a Catalysis Field

複合酸化物は電子状態や物性を戦略的に制御できることから選択酸化反応の触媒として広く利用されており,現在もその触媒研究が盛んに行われている。現代化学工業プロセスではコスト面,環境面を考慮した高難度な触媒反応が要求されることから,触媒にかかる期待は高まっている。この要求に応えるためには,ナノレベルで働く触媒作用を考慮した合理的な触媒設計が望まれる。今こそ,複合酸化物の触媒作用を深く理解するべきである。
筆者らは低級アルカンやアクロレイン選択酸化反応に工業触媒として用いられる多元系Mo-V複合酸化物の触媒作用を調べており,Mo3VOx複合酸化物(MoVO)中の七員環周りの局所構造で触媒作用が発現することを明らかにした1)。アクロレイン選択酸化反応においては,MoVOの結晶構造を保ったまま工業触媒と同様の元素構成(Mo-V-W-Cu-O)を実現でき,それぞれの構成元素に由来した触媒機能を集積できた。この触媒の結晶構造解析を行ったところ,触媒構成元素が七員環周りの構造部位にそれぞれ独立して配置され,美しいまでに秩序だった局所構造を構築していることがわかった2)。触媒局所構造を考慮したナノレベルな触媒設計論を基に触媒合成を行うことで,革新的な固体触媒を創出できると期待される。

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1) S. Ishikawa et al., Catal. Sci. Technol. 2016, 6, 617.
2) S. Ishikawa et al., ACS Catal. 2021, 11, 10294.

石川理史 神奈川大学工学部物質生命化学科