日本化学会

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エラスティック分子結晶

Elastic Molecular Crystals

分子性結晶は熱力学的に安定で密な分子集合構造を形成しているため,一般的には脆い。すなわち,機械的応力に対し,エネルギーを貯蔵しないため弾性変形することがない。一方,筆者らは弾性的な変形が可能なエラスティック分子結晶を開発してきた1, 2)。通常,物質の弾性変形は熱力学の基本であるエンタルピーとエントロピーで説明され,金属や高分子材料の弾性変形がそれぞれのファクターから考察される。分子結晶の弾性変形を実現するためには,分子結晶構造の安定性におけるエンタルピー変化が鍵となり,機械応力による分子・結晶構造変化によってエネルギーを貯蔵する。また,分子結晶の弾性変形は,分子の異方性・配向性に基づいている。変形方向・方式には結晶それぞれの特徴があるが,曲げ(Curved),巻き付け(Coiled),そして捻れ(Twisted)といった様々な機械変形が可能なものもある1)
π共役系分子からなるエラスティック分子結晶は,フレキシビリティーと機能(光,電子)を合わせた興味深い機能性材料となる。これまでにも,機械変形に基づくクロミズム3)や光閉込めによる高効率なフレキシブルウェーブガイド4)といった分子結晶機能が明らかにされている。分子結晶特有の光機能を生かしたエラスティック分子結晶の開拓とその分光学的分析を進めることで,分子結晶材料の可能性を広げ,フレキシブルデバイス材料の可能性を広げることが期待される。

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1) T. Seki, N. Hoshino, Y. Suzuki, S. Hayashi, CrystEngComm 2021, 23, 5686.
2) S. Hayashi et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2016, 55, 2701.
3) S. Hayashi, CrystEngComm 2021, 23, 5763.
4) S. Hayashi et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 17002.

林 正太郎 高知工科大学環境理工学群