日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >有機結晶 >ペリアセン化合物の一重項ビラジカル性と有機デバイスへの応用

ペリアセン化合物の一重項ビラジカル性と有機デバイスへの応用

Singlet Biradical peri-Acenes : Development and Application to Organic Electronic Devices

ベンゼン環を直線状に縮合したアセン類は,優れた半導体特性や多重励起子生成・消滅などの興味深い物性を示すことから,機能性材料への応用に向け数多く研究されてきた。しかしながら,ヘプタセンなど環数が多いアセンは安定性に乏しく,さらなる展開が困難となっている。一方,アセンをペリ位方向で縮環拡張した分子は,グラフェンナノリボンの短いセグメントとみなせるが,その開発は遅れている。ジグザグ端に不対電子が現れる共鳴構造は環状セクステット電子構造が最大となり,芳香族性の獲得によって安定化されるため,これらの分子は大きな一重項ビラジカルの寄与を示し,近年その電子構造に興味がもたれている1)
筆者らは,これまで新規ペリ拡張アセンのボトムアップ合成と有機デバイスへの応用に取り組んでいる2, 3)。2つのテトラセンを連結したようなペリテトラセン類は,近年になって初めて合成されたが4),その物性は完全にわかっていない。最近筆者らは,短いステップで合成できる新たなルートを見いだし,種々の誘導体を導出した。結合距離を知ることは分子の電子状態を議論する上で重要であり,結晶構造解析によって分子の大きなビラジカル性を確かめることができた。また,強い分子間相互作用および高い結晶性に着目し,有機トランジスタ材料として応用することでバイポーラ電荷輸送性を示すことも明らかにした。今後,機能性材料を指向したペリアセン類に関する研究のさらなる進展が期待される。

chem75-01-05.jpg


1) T. Y. Gopalakrishna et al., Chem. Commun. 2018, 54, 2186.
2) T. Jousselin-Oba et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 9373.
3) M. Mamada et al., Chem. Sci. 2021, 12, 552.
4) J. Liu et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 12442.

儘田正史 九州大学大学院工学研究院