日本化学会

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MOFガラスを用いたペロブスカイトの高性能化

Perovskite-MOF Glass Composites for Durable Optoelectronics

代表的な非晶質材料であるガラスの機能として,保護機能が挙げられる。スマホの画面を覆うアルミノ珪酸塩ガラス ,放射性廃棄物を閉じ込めるホウケイ酸ガラスなどがその例である。高い耐久性や機械特性, そして粒界のない緻密な材料特性がそれらを可能としている。
優れた性能を示すが, 安定性が乏しく開発が妨げられる材料は無数にある。無機ペロブスカイトCsPbI3は高 い電子移動度や高輝度フォトルミネッセンスを示し,太陽電池など様々な用途が期待されている。 しかし結晶多形や熱・化学的安定性に問題を有し,広範な展開を妨げている。CsPbI3の 特性を維持あるいは向上させつつ,保護できるガラスとして,Houらは金属-有機構造体(MOF)ガラス に着目した1)。結晶性材料として知られるMOFは,多孔性や伝導性の機能をもとに一部は実用に到達して いる。その中,MOF結晶の一部が融解し,ガラス化する現象が近年見いだされ,新しいガラスとして注目を集めてい る2)
Zn2+からなるZIF-62と呼ばれるMOFガラスとCsPbI3を粉末混合 したのち焼結,急冷することで,MOFガラス-CsPbI3複合体が得られる。この複合体では,「γ相」と呼 ばれる優れた光学特性を持つが構造的に不安定なCsPbI3が安定化される。なぜMOFガラスが保護・安定化 に最適なのか? 様々な分光・電顕測定より,複合体中ではZIF-62とCsPbI3由来のZn-I結合が 確認され,また良好な界面形成によりγ-CsPbI3の不安定化の原因である構造ゆらぎが抑え込まれる 。その結果,光学特性が上昇した上,安定性も飛躍的に向上した。水や有機溶媒中で1~2年以上変化がなく,熱や レーザーにも強い。合成は固相混合で実施でき,スケールアップも容易である。
MOFガラスのライブラリは加 速的に増えており3),複合化により様々な材料特性を引き上げる担体としても選べるようになると期待 される。

1) J. Hou et al., Science 2021, 374, 621.
2) T. D. Bennett, S. Horike, Nat. Rev. Mater. 2018, 3, 431.
3) S. Horike et al., Nano Lett. 2021, 21, 6382.

堀毛悟史 京都大学高等研究院