局在表面プラズモン共鳴は,光の電場により金属ナノ構造表面の自由電子が共鳴的に集団振動する現象で,金属表面近傍に効率良く光を集めることから物質の光応答を増強する手段として幅広い応用が期待されている。近年,応用の1つとしてプラズモンが誘起する化学反応が注目を集めている1)。プラズモンは励起から緩和の過程で,強電場,ホット電子・正孔,熱を生じそれらが励起源となり得るため,プラズモンによる分子の励起機構は複数提案されている。反応の詳細な解明には,プラズモンが局在する金属表面近傍のナノ領域における反応を分子スケールで理解することが重要である。
筆者らは,走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてプラズモンが誘起する反応の単一分子レベル観測を実現し研究を展開している2, 3)。STM探針と金属基板とのナノギャップへの光照射により生じるプラズモンにより,探針直下付近の分子が解離することを見いだした。さらに,トンネル電流の変化から反応の実時間計測を実現し,反応効率の光エネルギー依存性を単一分子レベルで明らかにした。単一分子レベルの反応観測と密度汎関数法による電子状態解析から,金属との相互作用により形成する吸着分子の電子状態に依存して励起機構が異なることが示された。今後,詳細な機構解明と触媒応用に向けた反応制御への指針の獲得が期待される。
1) E. Kazuma, Y. Kim, Angew. Chem., Int. Ed. 2019, 58, 4800.
2) E. Kazuma et al., Science 2018, 360, 521.
3) E. Kazuma et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2020, 59, 7960.
数間恵弥子 理化学研究所Kim表面界面科学研究室