近年,物質表面での水和現象,特に溶質の表面二層目以降の弱く影響を受けた水(第二水和圏や中間水と呼ばれる)の振る舞いに注目が集まっている。例えば,
この水が表面に多く存在することで,その材料の生体親和性が高まると言われており1),ECMO等の医療材料に積極的に利用されてきている。しかし,
こういった水和水の物性(生理条件下での量や水分子の運動性,水素結合状態)は十分にわかっておらず,生体親和性につながる要因もいまだ不明のままである。
一方で最近,このような溶質に弱く影響を受けた水を観測することが可能となりつつある。例えば,テラヘルツ分光による水の回転運動の観測から,
リン脂質や界面活性剤膜表面には数層にわたり弱く束縛された水が存在することが示され2),これは中性子準弾性散乱でも確認された3)。
また,水の運動状態は表面官能基に依存するが,直感に反して,弱く影響を受けた層の水の運動は比較的疎水的な官能基によって束縛されるが,
親水性の高い官能基だと加速されることも示されている2)。MDシミュレーションにより,溶質直近の水が溶質と強く結合することで,
その外側では水同士の水素結合構造が乱されることがこの原因であることもわかってきた(右図)4)。
このような弱く影響を受けた
水の振る舞いがどのように生体親和性に関わるのかについても,近く解明されることが期待されている。
1) 田中 賢,高分子 2019,68,311.
2) 菱田真史,オレオサイエンス 2020,20,321.
3) T. Yamada et al., J. Phys. Chem. B 2017, 121, 8322.
4) Y. Higuchi et al., Langmuir 2021, 37, 5329.
菱田真史 筑波大学数理物質系化学域