カーボンニュートラルの実現に向けて,水素は次世代エネルギーとして期待されている。しかし,水素はエネルギー密度が
低いことや低沸点のため液化や圧縮が困難であることなど課題がある。そのため,水素を別の化学物質(水素キャリア)に変換し,
これをエネルギー消費地まで運搬し,その場で水素を製造・利用することが考えられている。
アンモニアは水素含有量が高く,
製造方法やインフラがすでに確立されているため,水素キャリアの有力な候補の1つである。水素はアンモニア分解反応から製造され,
ルテニウム系触媒が高活性を示す。これまでにルテニウム系触媒の研究・開発が精力的に行われてきたが,ルテニウム金属は高価であるため,
それと同等の性能を安価な材料で達成することが求められる。近年,アンモニア分解触媒としてNiやCo, Feなどの卑金属やそれらの合金に
ついて活発に研究されている1)。その中で,Co, Mo, Fe, Ni, Cuから成るハイエントロピー合金はルテニウム系触媒に近い活性を示す2)。
また構成成分として,金属アミドやイミドを採用した触媒も開発されており,高活性を有する材料も報告されている3)。
筆者らも,ニッケル系触媒を中心に研究を進め,希土類成分を構成材料として利用することで高い活性が得られることを見いだしている4)。
今後,様々な材料から安価で高活性な触媒が開発され,アンモニアを水素キャリアとしたエネルギー社会の実現が期待される。
1) I. Lucentini et al., Ind. Eng. Chem. Res. 2021, 60, 18560.
2) P. Xie et al., Nat. Commun. 2019, 10, 1.
3) K. Ogasawara et al., ACS Catal. 2021, 11, 11005.
4) K. Okura et al., ChemCatChem 2016, 8, 2988.
室山広樹 京都大学大学院工学研究科