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汎用FT-IR装置に3Dプリンター 自作測定ホルダー装着して薄膜中の分子や化学結合の向きを検出

FT-IR Spectrometer with a 3D-printed Sample Holder Shows Molecular Orientation in Crystalline Hybrid Thin Films

無機薄膜の表面に吸着する分子の向き,また有機-無機ハイブリッド薄膜内の化学結合や分子の向きを把握することは,触媒,吸着,電子・光学特性などの向上を目指す上で重要である。しかし,吸着分子層や有機-無機ハイブリッド薄膜などの微量の試料は厚みも薄く構造解析が困難であり,特定の高感度X線装置1)や電子顕微鏡を必要とすることから研究効率の悪さや装置導入にかかるコストなどの課題から汎用性に欠ける。
最近,Baumgartnerら2)は,汎用のフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)装置に3Dプリンターを用いて設計した測定ホルダーを装着して,高感度に薄膜中の分子の方位を簡単に決定できる全反射測定法を報告した。測定に使用する赤外光に偏光を用いて,偏光の方位と波数を把握することで,試料中の特定の有機分子や分子ユニットの方位,さらに薄膜の構造を決定できる。金属有機構造体(MOF)の配向薄膜を測定モデル物質として構造解析を行った結果,結晶配向度についてX線構造解析と同程度の構造情報を得た。10 nm以下の超薄膜でも分子や化学結合の方位を決定できることを示した。加えて,結晶内での有機ユニットの配向方位を新たに明らかにしている。
測定ホルダーを3Dプリンターで自作できることから,温度や湿度をダイナミックに制御した装置や微小な化学反応システムと融合させることなどが可能となり,化学反応中の分子の向きや数の変化3)などの追跡への利用も期待される。

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1) W. B. Caldwell et al., J. Am. Chem. Soc. 1995, 117, 22.
2) B. Baumgartner et al., Chem. Sci. 2021, 12, 9298.
3) B. Baumgartner et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2022. doi: 10.1002/anie.202201725

岡田健司 大阪公立大学工学研究科 物質化学生命系専攻マテリアル工学分野