日本化学会

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多元素で構成される新規ナノ物質

New Nanomaterials Consisting of Multi Elements

近年,ハイエントロピー合金(HEA)をはじめとした多元素から成る複雑なナノ物質材料の開発が世界中で激化している。2018年にHuらによってScience誌に発表されたCarbothermal shock法1)に始まり,水素スピルオーバー2)やスパッタ3)を使った手法など,様々な合成法が提案され,多元素から成るナノ合金やナノセラミックスが開発されている。これらは構成元素が多く,配置のエントロピーが大きくなるため,ギブスの自由エネルギー(G=H-TS)からわかるように,高温での安定性に優れる。また,単元素や2,3元素から成るシンプルな物質では見られないような高い触媒活性も発現し,新物質として注目を集めている。筆者らは非平衡化学的還元法を用いて,これまでに白金族全6元素や貴金属全8元素から成るHEAナノ粒子4, 5)の合成,フロー合成法の開発6)に成功した。これらはエタノール酸化電極反応や水素発生反応などで極めて高い活性を示し,第一原理計算から粒子内の原子は同じ元素でも隣接する原子配列によって大きく異なる電子状態を有することが明らかとなった。このような特異な電子状態・物性が多元素ナノ物質の魅力であるが,系が複雑すぎるため現状では十分に理解が進んでいない。そのため,この分野は最先端計測やデータサイエンスなど多様な観点から研究が進められることで,今後,一層発展することが期待される。

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1) Y. Yao et al., Science 2018, 359, 1489.
2) K. Mori et al., Nat. Commun. 2021, 12, 3884.
3) T. Löffler et al., ACIE. 2020, 59, 5844.
4) D. Wu et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 13833.
5) D. Wu et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 3365.
6) K. Kusada et al., J. Phys. Chem. C 2021, 125, 458.

草田康平 京都大学白眉センター