日本化学会

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超分子触媒を用いる環境調和型有機合成

Supramolecular Strategy for Environmentally Benign Organic Synthesis

自己組織化により形成される超分子ホストは,しばしば酵素を模倣したような興味深い反応機構を有する触媒活性を示す。Raymondらによって,ビスカテコレート配位子とGa(III)からなる正四面体型超分子金属クラスター(Raymond M4L6)が開発され,内部の空孔に基質をゲスト分子として内包することで,水中や水系溶媒中で,基質特異的な反応加速や反応の化学・立体選択性の発現といった酵素のような触媒活性を示すことが見いだされた。
近年,Toste,Raymond,Bergmanらの共同研究グループは,カチオン性のロジウム錯体を内包させたRaymond M4L6がオレフィンの水素化反応に高い位置選択性を示し,複数の炭素-炭素二重結合が存在する基質においては,最も末端に近い部位のみが選択的に水素化されることを見いだした1)。また,pyridine-borane錯体はRaymond M4L6に内包されることで活性化し,様々な官能基の還元において,特異な化学選択性を発現した。特にペプチドやタンパク質のリジン選択的な還元的アミノ化に有効に機能し,生体高分子の新たなラベル化法として期待される2)。さらに,多重アニオン性のRaymond M4L6は,カチオン性の高分子によって安定化され,その空孔を活性点とする不均一系触媒として,連続フロー反応への適用も可能で,超分子触媒を用いる環境調和型プロセス合成への展開も期待される3)

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1) T. A. Bender et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 11806.
2) M. Morimoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 2108.
3) H. Miyamura et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 19327.

宮村浩之 東京大学大学院理学系研究科