日本化学会

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適度に乾いた塗布膜を転写してパターニングする

Printing Fine Patterns by Semidrying Ink Films

インク化した機能性材料をパターニングして各種デバイスを製造する試みは印刷エレクトロニクスと呼ばれる。液体材料を液体のまま印刷すると,濡れやコーヒーリング現象などの乾燥に伴う形状変化が生じてしまうので,微細なパターンを設計通りに形成することが難しい。
一方,塗布膜をある程度乾かしてから転写することで,印刷パターンの解像度を飛躍的に向上できることがわかっている1)。泥団子や粘土細工のように,塑性を呈するまで乾かすことで形状保持させつつ付着転写を実現するという発想で,ナノ粒子分散液だけでなく金属酸化物前駆体や硝酸塩のような低分子溶液も一桁ミクロンレベルの微細性で印刷できるようになってきた(図)2, 3)。ナノ粒子系薄膜ではおおよそ体積分率50%がパターニングに最適な乾燥条件であり4),古くからある土質の分類とも通じる。シミュレーションから,膜の変形と界面剥離のエネルギーによってパターン形成の成否が支配されることもわかってきた5)。このような微細印刷技術を使うことで,トランジスタ,量子ドット,メタマテリアル,イオンゲル,各種センサなどが試作され1),IoT社会への貢献が期待されている。印刷エレクトロニクスは,化学,化学工学,電子工学,機械工学などの異分野融合が不可欠で,概念の柔軟な組み合わせが発展につながるところが面白い。

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1) Y. Kusaka et al., Jpn. J. Appl. Phys. 2020, 59, SG0802.
2) Y. Kusaka et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 24339.
3) J. Leppäniemi et al., Adv. Electron. Mater. 2019, 5, 1900272.
4) Y. Kusaka et al., Soft Matter 2020, 16, 3276.
5) Y. Kusaka et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2019, 11, 40602.

日下靖之 産業技術総合研究所