近年,皮膚病(皮膚がん,掌蹠膿疱症など)の迅速かつ高精度な診断を目的とした新しい組織観察技術が求められている。従来の皮膚病診断では,患者から採取された組織ブロック(生検試料)の固定化,薄切片作成,染色というプロセスが必要となるため,診断までに1~2週間程度の時間や労力を要してしまう。さらに光学顕微鏡による薄切片の目視観察のため,三次元的な組織構造の取得が困難で病変細胞の検出に熟練の観察技術が要求されるといった問題があった1)。
そこで筆者らは,二光子蛍光イメージング(2PM)に着目した。2PMでは,厚みのある試料の断層画像とそれらを重ねた三次元画像の取得が可能となる。筆者らは最近,2PMに適した新規ピレン系色素を開発した2, 3)。これらの色素は高い蛍光量子収率と光安定性を示すばかりでなく,脂質膜への優れた染色性と鋭敏な蛍光ソルバトクロミズムを特徴とする。ヒト皮膚組織を新規色素および透明化試薬(LUCID)で処理したところ,試料をそのまま(=薄切片を作成することなく)2PMにて観察できることを発見した1, 3)。
Nile Redのような市販色素と比較して,ピレン系色素は組織構造を構成する個々の細胞を高いコントラストで描出することができ,正常細胞と腫瘍細胞の形態学的違いについても検出することが可能であった4)。本手法により従来の生検を2~3日間程度にまで短縮できたことから,医療現場への応用が期待される。
1) M. Murakami et al., Acta Histochem. Cytochem. 2020, 53, 131.
2) J. Valanciunaite et al., Anal. Chem. 2020, 92, 6512.
3) K. Inoue et al., J. Mater. Chem. B 2022, 10, 1641.
4) M. Murakami et al., J. Dermatol. Sci. 2021, 102, 130.
仁子陽輔 高知大学教育研究部総合科学系