日本化学会

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リキッドバイオプシーに向けた細胞外小胞の分離

Extracellular Vesicle Separation for Liquid Biopsy

リキッドバイオプシーと呼ばれる検査法は,血液や尿,唾液などの体液の採取・検査のみで疾病の検出や追跡が可能になると期待されている手法である。リキッドバイオプシーの解析対象の生体物質として,従来のタンパク質や循環腫瘍細胞に,cell-free DNA・messenger RNA・microRNAなどの核酸が加わり,さらに近年,細胞外小胞が加わった。細胞外小胞は内部に含有される分子(タンパク質・RNAなど)をほかの細胞に受け渡す機能を持つ細胞間情報伝達物質であり,疾病の進展にも関連していると考えられている。応用への期待が高まる細胞外小胞ではあるが,臨床検体の細胞外小胞の分離・解析のための効率的かつ標準的な手法が不足していることが研究開発の大きなボトルネックとなっている。
現在用いられている主な細胞外小胞の分離方法は,密度や大きさ,特定の表面マーカーなどの特徴に基づく分離方法である1)。これまでに超遠心機を用いる密度による分離,抗原抗体反応を用いる表面膜タンパク質による分離,サイズ排除クロマトグラフィーを用いるサイズによる分離などが報告されている。筆者らは酸化物ナノワイヤを用いた細胞外小胞の表面電荷に基づく分離の研究を進めており2),ナノワイヤの形態や結晶構造によって細胞外小胞の捕捉効率が異なることを見いだした3)。酸化物ナノワイヤを用いることで尿中の細胞外小胞に由来するmicroRNAを高効率に抽出することが可能であり4),そのmicroRNAを調べることで,脳腫瘍の種類や大きさを問わず99%の正確度(感度100%,特異度97%)で診断できることを示した5)

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1) R. Szatanek et al., Int. J. Mol. Med. 2015, 36, 11.
2) T. Yasui et al., Biosens. Bioelectron. 2021, 194, 113589.
3) P. Paisrisarn et al., Nanoscale 2022, 14, 4484.
4) T. Yasui et al., Sci. Adv. 2017, 3, e1701133.
5) Y. Kitano et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2021, 13, 17316.

安井隆雄 名古屋大学大学院工学研究科