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三重鎖形成ペプチド核酸(PNA)によるウイルスRNA(vRNA)検出

vRNA Detection by Triplex-forming PNA

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の世界的大流行を身を持って経験した今,感染症診断技術の重要性は,一般に広く認識されている。種々の感染症に対応し,次のパンデミックに備えるためには,PCR法・抗体検査のみに依存することなく,新しい診断技術の開発が肝要と言える。本稿では,三重鎖形成PNAを用いるA型インフルエンザウイルス(IAV)RNA検出技術について紹介する。
三重鎖形成PNAは,現在までに開発された合成分子の中で,RNA二重鎖へ塩基配列選択的に結合し,かつDNA二重鎖よりも強く結合できる唯一の分子であるが1),「塩基配列の制限」と「酸性条件」がボトルネックとなっていた。Chenらは,GおよびC-G塩基対に対する人工核酸塩基(L, Q)を開発,IAV RNAのプロモーター領域を標的とする三重鎖形成PNAを合成し,IAV RNA検出に適用できることを報告している(検出下限:3600 ng/mL)2)。  
一方,Satoらは,蛍光色素チアゾールオレンジ(TO)を擬塩基として活用し,さらにインターナルループ結合分子(DPQ)を連結することで,IAV RNAのプロモーター領域を標的とする三重鎖形成PNAを開発した(検出下限:60 ng/mL)3)。  
現時点ではPCR法の感度に及ばないものの,三重鎖形成PNAを活用することで,IAV RNAの複製・転写を阻害できることも報告されており4),次世代vRNA検出技術の基盤になると期待できる。

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1) E. Rozners et al., J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 8676.
2) G. Chen et al., Anal. Chem. 2019, 91, 5331.
3) Y. Sato et al., Anal. Chem. 2022, 94, 7814.
4) G. Chen et al., Bioconjugate Chem. 2019, 30, 931.

西澤精一 東北大学大学院理学研究科