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光誘起電子移動脱炭酸反応を利用した安息香酸からのアリールラジカルの発生

Generation of Aryl Radicals from Benzoic Acids utilizing Photoinduced Electron-transfer Decarboxylation Reaction

アリールラジカルAr•は,不対電子がσ軌道にあるために置換基による直接的な安定化を受けることができず,非常に反応性が高い。 しかし,従来のAr•の発生方法は限られており,合成への応用は極端に遅れていた。
一方,アルキルラジカルR•の発生は比較的容易で,例えば筆者らの脂肪族カルボン酸の光誘起電子移動脱炭酸を利用する方法がある1)。これを参考にすれば,安息香酸誘導体の同様な反応でAr•の発生が可能であるが,その報告例はなかった。そこで筆者らは,ビフェニル(BP)とジシアノナフタレン(DCN)もしくはジシアノアントラセン(DCA)による2分子系光レドックス触媒を用いて,紫外光や可視光の照射を30℃で行ったところ,安息香酸から期待どおりにAr•が発生することを見いだした2)。この反応は様々な安息香酸誘導体に適応でき,Ar•を用いてアルケン付加やボロン酸エステル化,還元反応などを達成できた。また,メトキシカルボニルシアノアントラセン(MCA)を用いて可視光照射をした場合,脱炭酸反応の効率が劇的に向上した3)。この反応は,Ir錯体や福住触媒などの1分子系光レドックス触媒では進行せず,2分子による光レドックス触媒のみで進行する。このように,容易に入手可能な安息香酸から温和な条件下でAr•が発生できるため,芳香環を直接導入する様々な合成反応への応用が期待される。

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1) Y. Yoshimi, J. Photochem. Photobiol. A 2017, 342, 116.
2) S. Kubosaki, Y. Yoshimi et al., J. Org. Chem. 2020, 85, 5362.
3) Y. Tajimi, Y. Yoshimi et al., J. Org. Chem. 2022, 87, 7405.

吉見泰治 福井大学学術研究院工学系部門