日本化学会

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硫黄を配位元素とした半導体配位高分子の開発

Development of Sulfur-Based Semiconductive Coordination Polymers

金属イオンと架橋配位が無限につながった結晶性の材料は,配位高分子と呼ばれ,特に格子中に空隙が存在する多孔性配位高分子(PCP)や金属-有機構造体(MOF)は,新しい多孔性材料として盛んに研究がされている。一般に,PCP/MOFの多くはバンドの分散が小さい絶縁体であり,分子設計によって配位高分子に電気伝導性を付与する試みが近年数多くなされている。Dincăは,MOFの構造中で電気伝導を担う経路をthrough-bond,extended conjugation,through-spaceの3種類に分類することを提案している1)。この中でも,through-bondによる電導経路の形成は大きなバンドの分散が期待できるが,現時点では報告数が最も少ない。Through-bond型の電導経路の設計戦略として,配位元素に硫黄を使うことで結晶構造中に金属-硫黄の無限ネットワークを形成する手法が挙げられる。例えばXuらは,ベンゼンチオール誘導体を配位子に用いることで,金属-硫黄二次元シート構造を有する配位高分子を合成し,配位子の置換基によりバンドギャップの制御や,センサーへの応用に成功している2, 3)。また,筆者らは,鉛-硫黄ネットワークを持つ配位高分子の水分解水素発生光触媒特性を報告している4)。  
一方,硫黄系配位子は金属と共有結合的に強い結合を形成するため,含硫黄配位高分子の結晶性は低くなる傾向があり,合成が一般的には困難である。筆者らは,新規含硫黄配位高分子の合成条件探索過程で得られた失敗実験の結果を機械学習により解析する,効率的な合成条件の探索手法を近年報告している5)。このような新しい合成手法の開発により,含硫黄半導体配位高分子の開発が今後さらに促進されることを期待している。

1) M. Dincă et al., Chem. Rev. 2020, 120, 8536.
2) G. Xu et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 19710.
3) G. Xu et al., Nat. Commun. 2020, 11, 261.
4) D. Tanaka et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 27.
5) D. Tanaka et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 23217.

田中大輔 関西学院大学理学部