日本化学会

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人工中分子を用いた細胞内PPI制御

Regulation of Intracellular PPIs using Synthetic Mid-sized Molecules

細胞内に存在するタンパク質間相互作用(PPI)は,様々な生命現象の発動に関わっており,生命科学の重要な研究対象であるとともに,創薬の重要な標的でもある。
こうした細胞内PPIを制御可能な分子として,大きな分子表面を有する中分子への期待が高いが,代表的な中分子であるペプチドは一般的に膜透過性が低いため,細胞内のPPIに対してペプチド性の阻害剤が実現された例は少ない。このため,膜透過性の高い人工中分子の開発研究が活発に行われている。
こうした膜透過性の高い中分子の成功例の1つとしてペプトイドが挙げられる。ペプトイドは,構造の柔軟性が高く,タンパク質への結合親和性が低いという課題を抱えていたが,構造を剛直化する分子設計が進むことで,細胞内PPIを阻害するペプトイドが実現し始めている。例えば,Kirshenbaumらは,環状ペプトイドを用いることで,細胞内PPI阻害剤の開発に成功している1)。また,筆者らは最近,ペプトイドの主鎖骨格を改変し,局所的な立体反発によって構造を剛直化することで,細胞内PPI阻害剤を創出することに成功している2~4)
ペプトイド以外にも,Jianfeng Caiのグループによって研究が進められているsulfono-γ-AApeptidesなどの中分子も細胞内PPI制御に成功しており5),こうした人工中分子が,生命科学研究や創薬研究における新たなモダリティとして活用されていくことが期待される。

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1) J. A. Schneider et al., Nat. Commun. 2018, 9, 4396.
2) J. Morimoto et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 14612.
3) Y. Fukuda et al., Chem. Sci. 2021, 12, 13292.
4) M. Yokomine et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2022, 61, e202200119.
5) P. Sang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2019, 116, 10757.

森本淳平 東京大学大学院工学系研究科