日本化学会

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アザ[7]ヘリセンの短工程合成

Short-Step Synthesis of Aza[7]helicene

円偏光発光(CPL: Circularly Polarized Luminescence)とはキラル色素から左右円偏光の一方が優先的に生じる現象であり,次世代3Dディスプレイやセキュリティーペイントなどへの応用が期待されている。高性能な有機CPL色素の開発を目的として,軸不斉ビナフチルや螺旋π共役系化合物ヘリセンを中心に盛んに研究が行われている。
筆者らはカルバゾールを配位子としたホウ素錯体の研究を行っており,CPLの発現を期待してキラルホウ素錯体を合成した。ホウ素上に軸不斉ビナフチルを導入した1やアザ[7]ヘリセンを配位子として用いた2はそれぞれ固体CPLや長波長CPLを可能とした1, 2)。後者の研究ではFeCl3を用いたScholl反応を駆使することで短工程(2工程)かつ高収率(90%)でアザ[7]ヘリセン3が合成された。その後HPLCによる光学分割により2へ誘導された。意外なことに3は2工程90%で合成できるにもかかわらず当時は報告例皆無の新規化合物であった。3はπ拡張したキラルなカルバゾールの1つであり,短工程での新規アザ[7]ヘリセン3の合成が実現したことで,今後様々なキラル光学材料への応用展開が期待される。実際ごく最近,この短工程合成を利用して様々なヘテロヘリセンやサーキュレン類も合成された3)。今後も,機能性・新規性の高いアザヘリセン類の合成と開発が期待される。

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1) C. Maeda, T. Ema et al., Chem. Commun. 2019, 55, 3136.
2) C. Maeda, T. Ema et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2020, 59, 7813.
3) C. Maeda, T. Ema et al., Chem. Eur. J. 2021, 27, 15699.

前田千尋 岡山大学学術研究院自然科学学域