日本化学会

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太陽光を用いたCO2と水からのギ酸合成! 実用サイズでの高効率化

Formate Production from CO2 and Water Using Solar Energy! Improvement in Conversion Efficiency with Practically Large-sized Cell

太陽光を用いてCO2と水を有用な有機物に変換する人工光合成技術は,小型セルを用いた原理検証から実用化を目指した大規模実証の段階に移行しつつある。H2生成については,100 m2規模の光触媒を用いた実証実験が行われている1)。CO2変換については,電気化学リアクターと太陽電池を組み合わせた方式が先行し,ギ酸を生成する人工光合成セル(照射面積1.5 m2)が作製された2)。ギ酸は,飼料防腐剤,化成品原料のほかに,水素キャリアとしての利用やギ酸燃料電池への用途が期待される。ただし,太陽光から化学エネルギーへの変換効率(ηstc)は1.9%と低く,ηstc の向上が課題であった。
筆者らは,低過電圧であるRu錯体ポリマー還元触媒3)と高活性なIrOx酸化触媒を用いた電気化学リアクターと結晶シリコン太陽電池を組み合わせた大型の人工光合成セルを構築した。面積1000 cm2のセルでηstc 7.2%4),さらに大型の1 m2セルでは世界最高水準のηstc 10.5%でギ酸を生成した5)。実用化を目指し,大型化に特有の課題である,電極触媒の低抵抗化,CO2が溶解した電解液の均一流れ,O2還元反応の抑制などの実現により,大型化と高効率化を両立させた。今後は,触媒の耐久性向上と低コスト化,低濃度CO2環境下での高効率反応などが課題である。

chem75-10-08.jpg

実用サイズの人工光合成セルの,上段:断面構造,下段:外観,側面窓からは反応により生じるO2気泡が観察される。
ギ酸生成速度は1.2 mol/h


1) H. Nishiyama et al., Nature 2021, 598, 304.
2) J. L. White et al., J. CO2 Util. 2014, 7, 1.
3) T. Morikawa et al., Acc. Chem. Res. 2022, 55, 933.
4) N. Kato et al., Joule 2021, 5, 687.
5) N. Kato et al., ACS Sustain. Chem. Eng. 2021, 9, 16031.

加藤直彦 (株)豊田中央研究所