従来の情報処理・通信を超える技術として,量子光を用いる手法が注目されている。カーボンナノチューブは室温かつ通信波長帯域で単一光子発生が可能であることから1),量子光源としての大きな可能性を秘めている。これまでに,化学修飾をすることで高純度な単一光子を発生可能な量子欠陥を導入できることが知られていた。
量子欠陥を合成直後の架橋カーボンナノチューブに導入できれば,量子光源の高性能化が期待できる。架橋カーボンナノチューブは,溶液分散のナノチューブと比較して消光サイトが少なく,発光効率が数倍高いからである。しかし,従来のカーボンナノチューブの化学修飾は溶液プロセスであるため,架橋カーボンナノチューブには適用できなかった。
そこで本研究では,ヨードベンゼンの蒸気を用いた気相化学反応により,架橋カーボンナノチューブの化学修飾を行う手法を実証した2)。また,2000本以上のカーボンナノチューブについて,反応前後の発光スペクトルを比較したところ,チューブの表面曲率に依存した発光特性や反応性を示すことが明らかになった。架橋カーボンナノチューブへの気相化学反応が可能になったことで,反応分子数の精密なコントロールが実現し,単一分子レベルで量子欠陥を導入できる技術となることが期待される。
1) A. Ishii et al., Nano Lett. 2018 18, 3873.
2) D. Kozawa et al., Nat. Commun. 2022 13, 2814.
小澤大知,加藤雄一郎 理化学研究所