フォトン・アップコンバージョンは低エネルギー光を高エネルギー光に変換する技術である。中でも有機分子の三重項-三重項消滅に基づくアップコンバージョン(TTA-UC)は弱い強度の光を変換できるという特徴を有する。太陽光や室内光に含まれる可視光を紫外光へと変換できれば,紫外光応答型光触媒との複合化により太陽光水素製造や環境浄化への応用が期待できる。しかし,可視光から紫外光へのTTA-UCは効率が10%以下と低く,太陽光よりも1000倍ほど強い強度の励起光が必要であった。
筆者らはこの問題の原因は三重項増感剤が紫外域に強い吸収を持ちTTA-UC発光を消光してしまうことにあると考え,紫外域の吸収が比較的弱いクマリン誘導体に着目した。低い三重項準位と強い紫外蛍光を併せもつ発光体を探索し,トリイソプロピルシリルエチニル基をもつナフタレン誘導体(TIPS-NPh)を見いだした。Irクマリン錯体とTIPS-NPhの組み合わせは従来記録よりも2倍ほど高い20.5%という高いTTA-UC効率を示し,太陽光や室内LEDといった弱い光からの紫外光発生を可能にした(図参照)1)。また,環境負荷やコストの低減のため,重金属フリーなカルボニル基を有するクマリン誘導体を増感剤に用い,20.3%という同等のTTA-UC効率を得ることにも成功した2)。身の回りの光をより有効に活用する技術に繋がっていくと期待される。
1) N. Harada, Y. Sasaki, M. Hosoyamada, N. Kimizuka, N. Yanai, Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 142.
2) M. Uji, N. Harada, N. Kimizuka, M. Saigo, K. Miyata, K. Onda, N. Yanai, J. Mater. Chem. C 2022, 10, 4558.
楊井伸浩 九州大学大学院工学研究院