日本化学会

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πスタック型高分子の構造安定化とその形成機構の解明

Elucidation of Structural Stabilization and Formation Mechanism of π-Stacked Polymers

高分子の側鎖や主鎖にα-アミノ酸を導入する分子設計は,水素結合による分子構造の安定化に利用されている。一方で,タンパク質においてアミノ酸上のα置換基がその構造形成や安定化に重要な役割を担っているにもかかわらず,高分子の分子設計においてα置換基に重要性はあまり考慮されていない。
筆者らはポリ(キノリレン-2,3-メチレン)(PQM)の新規合成法を開発し1),側鎖置換基にアラニン誘導体を導入した場合,側鎖間の水素結合により主鎖キノリン環がらせん状にπスタックした二次構造を形成することを報告している2)。今回,側鎖に様々なアミノ酸誘導体を持つPQMを合成したところ,πスタック型らせん高分子の安定性はアミノ酸置換基の形状に大きく依存し,特に嵩高いシクロヘキシルアラニンの場合には,高温や極性溶媒に対して高い安定性を示した3)。さらに,これらの安定性の違いは重合挙動にも影響を与えた。安定なπスタック構造を形成するシクロヘキシルアラニン,ロイシン誘導体を側鎖に持つ場合,重合初期に主鎖が絡まった準安定構造を形成し,その後不可逆な構造変化を経て,熱力学的に安定な核となるらせん状のπスタック構造へと変化し,重合の進行とともにらせん構造が伸長することを明らかにした。一方,πスタック構造を安定に形成しないアラニン誘導体の場合,このような挙動は観測されかったことから,側鎖のアミノ酸置換基が熱力学的に最も安定な構造を決定していることが明らかになった。 p>

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1) N. Kanbayashi, K. Onitsuka et al., J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 15307.
2) N. Kanbayashi, K. Onitsuka et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2020, 59, 10286.
3) N. Kanbayashi, K. Onitsuka et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 6080.

神林直哉 大阪大学理学研究科