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フルオロスルホニル基を鍵とする窒素官能基化剤の開発

Aminating Reagents Capitalizing on N-fluorosulfonyl Group

有機化合物に炭素-窒素結合形成を介して窒素官能基を導入する方法は,有機化学の黎明期から現代に至るまで,有機化学者の主要な研究課題の1つである。教科書的には硝酸による芳香族求電子置換反応やガブリエルアミン合成などが,近年ではバックワルド・ハートウィッグアミノ化などが挙げられる。
この炭素-窒素結合形成を実現する新たなアプローチとして筆者らは2021年に新たな窒素官能基化剤となるN-(フルオロスルホニル)カルバミン酸エステル1を発表した。本反応剤1とそのリチウム塩2を用いることで,ヨウ素触媒によるアルケンの分子間および分子内不斉オキシアミノ化反応が達成された1, 2)。さらなる展開として,筆者らは東大フッ素有機化学研究・AGC社との共同研究により,1の窒素部位がフッ素化された新試薬N-フルオロ-N-(フルオロスルホニル)カルバミン酸エステル(略称NFC,3)の創出に至った。NFC(3)は炭素-窒素結合形成反応においてN-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)の上位互換試薬と見なすことができる3)。3は,銅触媒による芳香環のC-Hイミド化反応およびアルケンのイミドシアノ化反応において,より幅広い基質一般性を示した。
これら試薬は脱保護や誘導化の容易さも特徴であり,今後さらなる発展が期待される。

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1) C. Wata et al., J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 1745.
2) C. Wata et al., Synthesis 2021, 53, 2594.
3) Y. Oe et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 2107.

橋本卓也 理化学研究所開拓研究本部