日本化学会

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SLIPT-PMシステムを用いた細胞内シグナル操作

Cell Signal Manipulation Using the SLIPT-PM System

細胞内の特定のシグナル分子やシグナル経路を特異的に操作する技術は,細胞内情報伝達ネットワークを構成的に解析するための重要な基盤ツールとなる。筆者らは,「自己局在性リガンド誘導型タンパク質局在移行(SLIPT)」1)の手法を発展させ,細胞膜(PM)が起点となるシグナルを自在に操作することのできるプラットフォーム技術「SLIPT-PM」を開発した2)。本システムではまず,任意のタンパク質に専用のタグタンパク質(iK6DHFR)を融合したものを細胞に発現させる。その培養液に,PM局在性リガンド(mDcTMP)3)を添加することで,iK6DHFR融合タンパク質を細胞質からPMへ速やかに移行させることができる。細胞内ではタンパク質の局在移行を引き金としてその下流分子が活性化される。実際に,本システムをPMで機能するいくつかの代表的なタンパク質に適用したところ,キナーゼ,低分子量Gタンパク質,シグナル脂質,Ca2+など,受容体直下の主要なシグナル分子・経路を自在に活性化することが可能であった。
さらに,mDcTMP,競合リガンド(TMP),洗浄操作を組み合わせることで,Rafキナーゼの細胞質-PMシャトリングを繰り返し誘導し,ERKシグナルを人工的に振動させることもできた。SLIPT-PMシステムは,実験操作も簡便なため,細胞内シグナル操作のための汎用的ケミカルツールとして,今後,様々な情報伝達研究に利用されるものと期待される。

chem75-12-02.jpg1) M. Ishida et al., J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 12684.
2) S. Suzuki et al., Cell Chem. Biol. 2022, 29, 1446.
3) A. Nakamura et al., ACS Chem. Biol. 2020, 15, 837.

築地真也・鈴木祥央 名古屋工業大学大学院工学研究科