日本化学会

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細菌のもつ多様なヒドラジン生合成経路の開拓

Exploring the Bacterial Hydrazine Biosynthetic Pathways

N-N結合含有複素環は医薬品分子中に頻繁にみられるが,天然物では非常に稀である。こうした天然物を効率良く発見できれば,医薬品シードの発見や,生合成酵素を活用した効率的な合成手法の開発へとつながる可能性がある。
筆者らは,ヒドラゾン天然物s56-p1の生合成経路において2分子のアミノ酸からヒドラジンを生成する新規酵素hydrazine synthetaseを発見し,2018年に報告した1)。本酵素遺伝子は系統的に多岐にわたるバクテリアのゲノムに分布しており1),これにより生合成されるヒドラジンを「鍵中間体」として,ヒドラゾン1)やトリアゼン2),ピラゾール3)といった様々なN-N結合含有構造が形成される。筆者らは微生物のヒドラジン生合成経路の多様性を明らかにするため,ゲノム情報を指標とした天然物探索を行い,医薬品母核として有用であるが天然物としてはこれまで例のないN-N結合含有複素環ジヒドロピリダジノンを有するactinopyridazinoneを発見した4)。これまで知られているヒドラジン中間体はいずれもリジンを前駆体とするが,本化合物のそれは非タンパク質構成性アミノ酸である2,4-ジアミノブタン酸(DABA)を前駆体とするものであり,hydrazine synthetaseを介して様々な組み合わせのアミノ酸からヒドラジンが生合成されることが判明した。近縁のヒドラジン合成経路を開拓することで,これまでにない骨格をもつ天然物のさらなる発見が期待できる。

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1) K. Matsuda et al., J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 29.
2) A. Del Rio Flores et al., Nat. Chem. Biol. 2021, 17, 12.
3) G. Zhao et al., Nat. Commun. 2021, 12, 1.
4) K. Matsuda et al., J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 28.

松田研一 北海道大学大学院薬学研究院