日本化学会

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ジャイロイド構造を有する機能性高分子膜の開発

Development of Functional Polymer Films Having Gyroid Nanostructures

ある種の低分子化合物は液晶性を示し,自己組織的に様々な分子集合構造を形成する。これらの液晶化合物は,分子集合構造由来の機能を発揮するため,ナノ構造材料として幅広い分野で注目されている1)。特に,液晶化合物の分子骨格に重合性官能基を導入し,分子集合構造を形成している状態でin situ重合することにより高分子膜化する技術は,精緻なナノ構造を有する機能性高分子膜を創り出す技術として注目が高まってきている。
筆者らは,液晶の中でも双連続キュービック相として分類される液晶相の機能化に焦点を絞って研究を推進してきた2)。この液晶相は,格子長が数nmのジャイロイド構造を自発的に形成するため,ドメインの配向によらない機能・物性を発揮する。例えば,2019年に筆者らは,図に示したような両親媒性Zwitterionを設計・合成した3)。この分子に適切量の酸および水を添加し,自己組織化とそれに続くin situ重合過程を経ることで,親水的な三次元極小界面を有するジャイロイド構造膜を生み出すことに成功した。この膜は,湿度/温度条件次第で10-1 S cm-1という極めて高いプロトン伝導度を示す。このような高分子膜設計は,次世代の燃料電池デバイスに貢献する基盤技術として期待できる。

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1) T. Kato et al., Nat. Rev. Mater. 2017, 2, 17001.
2) T. Ichikawa et al., J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 11354.
3) T. Kobayashi et al., Chem. Sci. 2019, 10, 6245.

一川尚広 東京農工大学大学院工学研究院