日本化学会

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針刺し刺激で強発光性固体へ瞬時に変換

Luminescent Enhancement Trigered by Needlestick Stimulus

外部環境や刺激により著しく発光特性が変化する分子集合体はセンサー等の分子性素子の構成成分として注目されている1)。最近では,機械的刺激に応じて発光色が変化する分子集合体が多数報告され,実験・理論の両面から分子論的機構の解明が進んできている。このような刺激応答発光の実現には通常,固体全体への念入りな刺激の印加が必要である。一方,ピンポイントでの刺激情報が多結晶固体中に速く伝わるような発光特性変換ができれば,応用可能性が広がると考えられる。
さて,筆者らのグループは液状化可能なイオン性物質に関する研究を行っている2, 3)。その過程で,あるラジカルカチオン塩において液状化を利用して調製した多結晶固体をピンポイントに刺激すると,磁気的性質がその一点から多結晶固体全体にわたって徐々に変化することを見いだした2)。さらに筆者らは,同様に液状化を利用して調製したN-ヘテロ環状カルベンを配位子とする金(I)錯体塩の多結晶固体が,初期状態ではUV照射下でほとんど発光性のない状態であるが,弱い針刺しによる刺激により瞬時に強い青紫色発光を示す状態に変換されることを発見した4)。針を刺した箇所から発光増大が誘起されており,結晶同士が少しでも触れていればセンチメートルオーダーにわたって刺激情報が伝わることもわかった。その針刺し刺激による発光増強が伝搬する速度はかなり速い(6 mm/s)。このような液状化を利用する方法は,初期状態に戻せたり,様々な形状に加工できることからさらなる進展が期待される。

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1) M. Kato et al., Chem. Eur. J. 2019, 25, 5105.
2) S. Suzuki, T. Naota et al., ACS Omega 2019, 4, 10031.
3) S. Suzuki, T. Naota et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 8284.
4) D. Zhang, S. Suzuki, T. Naota, Angew. Chem., Int. Ed. 2021, 60, 19701.

鈴木修一 大阪大学大学院基礎工学研究科