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かご型錯体と有機蓋状アニオンの協働による分子包接と結晶化

Inclusion and Crystallization by a Coordination Cage with Cap-like Anions' Cooperation

中空ホスト分子の内部空孔は,有機分子を包接することで特異な物性発現や選択的反応などを促す。ホストの分子包接能は自身の構造に依存し,一般に性能不足の場合にはホストを再設計しなくてはならない。一方で,近年,イオン性ホストの分子認識挙動を対イオンの種類によって調整できることがわかってきた1)
筆者らは,カチオン性のかご型ホスト錯体に対し,その開口部に配置されるように設計した蓋状アニオンを加えることで,錯体の分子包接能の強化や選択的結晶化が行えることを示した2, 3)。藤田らの正八面体かご型錯体4)は,水溶液中で様々な有機分子を包接する。一方で,水溶性分子やカチオンなどを包接することはできなかった。このかご型錯体は三角形開口部を有し,その頂点にPd2+が配置されている。この開口部に形状が合う三脚型アニオンを加えると,静電相互作用により開口部に蓋をするように位置する。蓋状アニオンが追加の相互作用点として働くことで,一級アンモニウムカチオンや金属イオン水和物の包接が可能になった。この蓋付きホストの包接錯体は内包分子なしのホストより結晶化しやすく,これを利用すると二種類の金属イオンの混合物から一方を結晶化し分離することもできた。このように,かご型錯体の開口部で特異的に働く有機アニオンを設計することで,ホストそのものに化学的改変を施すことなく性能を変えることができる。今後の人工ホストによる分子システムの可能性を広げるものになるだろう。

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1) 例えば,Y. Sakata et al., Nat. Commun. 2017, 8, 16005.
2) H. Takezawa et al., J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 17919.
3) R. Tabuchi et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2022, 61, e202208866.
4) M. Fujita et al., Nature 1995, 378, 469.

竹澤浩気 東京大学大学院工学系研究科