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放射性セシウム含有微粒子から福島第一原発事故の放射性物質の放出プロセスを探る

Exploring Emission Processes of Radioactive Material by the FDNPP Accident using Cesium-bearing Microparticles

福島第一原発事故で放出された放射性Cs源の1つとして,不溶性の放射性Cs含有微粒子(CsMP)が知られている。主として球形で体積あたりの放射能濃度が高く,関東地方までの広い範囲に分布するType Aと,不定形で放射能濃度が低く,北北西にのみ分布するType Bの2種類のCsMPが報告された。放射性プルームの輸送経路情報に加えて事故当時の134Cs/137Cs放射能比が核燃料の使用時間に依存することを利用し,Type Aは原発2号機,Type Bは1号機由来と推定された1)
マイクロX線CTと蛍光X線分析を組み合わせたCsMPの精密な調査によりそれぞれの生成過程の違いがわかってきた2)。Type B粒子内には多くの空洞と鉄に富む部分が存在し,球形のものは非球形よりも揮発性元素の濃度が高かった。これは,球形のType A粒子がガス凝縮によって形成されたのに対し,Type B粒子は溶融凝固によって形成されたことを示唆する。さらに,茨城県沿岸域の堆積物から発見された2個のCsMP(図)は,放射能比および放射能濃度からはType A粒子に分類されたが,通常のType A粒子に多く含まれるZnが存在しない一方で,Caが検出された。溶融炉心とコンクリートの相互作用が起きたとされる3号機に由来する粒子と推定された3)。このように,CsMPは事故時の炉内の状況を推定する手がかりとなっており,さらなる試料の発見と分析が望まれる。

chem76-01-05.jpg

図 典型的のCsMP(上)Type Aおよび3 号機由来と推定される3CsMP(下)


1) Y. Igarashi et al., J. Environ. Radioact. 2019, 205, 101.
2) H. Miura et al., Sci. Rep. 2020, 10, 11421.
3) H. Miura et al., Sci. Rep. 2021, 11, 5664.

桧垣正吾 東京大学アイソトープ総合センター