日本化学会

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有機合成から生理機能解明へ

From Organic Synthesis to Physiological Study

環状オリゴ糖であるシクロデキストリンは,水中で様々な化合物を内包し,包接化合物を形成する。筆者らは,メチル化シクロデキストリンが水中でポルフィリン類を捕捉する現象に着目し,水中で機能する人工ヘモグロビン・バイオミメティック錯体の合成に取り組んできた1)
ピリジンで連結したメチル化シクロデキストリン二量体とポルフィリン鉄錯体の包接化合物は,hemoCDと名付けられ,水中でヘモグロビンと同じように酸素や一酸化炭素(CO)と可逆的に結合する(図)。筆者らは,この錯体を用いて,生体内で選択的にCOのみを除去する系を確立した。この手法により,動物体内で恒常的に作られる内在性COの生理機能が解明できる。例として,内在性COをhemoCDによって除去したマウスでは体内時計システムが乱れるという成果を報告した2)。さらにhemoCDを用いて,火災等で発生するCO中毒を即時治療する創薬研究を開始している。建物火災ではCOと同時にシアン化水素(HCN)が発生する。筆者らはCOとHCNを解毒するシステム「hemoCD-Twins」を考案し,現在,医師の協力のもとに社会実装に向けた検討を開始している。以上の研究成果について,2022年11月11日に京都大学宇治キャンパスで開催された生産技術・製品開発ディビジョン勉強会で発表し,産学両方の参加者から様々な貴重な意見を頂戴した。

chem76-01-06.jpg図 人工ヘモグロビン錯 hemoCD

1) H. Kitagishi, K. Kano, Chem. Comm. 2021, 57, 148.
2) S. Minegishi et al., Sci. Rep. 2018, 8, 11996.

北岸宏亮 同志社大学理工学部機能分子・生命化学科