日本化学会

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脂質生合成を阻害するビタミンD誘導体の合成

Synthesis of Vitamin D Derivatives that Inhibit Lipid Biosynthesis

脂質生合成の司令塔SREBP(sterol regulatory element-binding protein)は,SCAP(SREBP cleavage-activating protein)およびInsig(insulin inducing gene)と複合体を形成し小胞体膜上に存在する。コレステロール低値になるとSREBP/SCAPがゴルジへ輸送され活性型SREBPが切り出されて転写因子として働く。最近,25-ヒドロキシビタミンD3[25(OH)D3]がSCAPに結合して,SREBP/SCAPをタンパク質分解へと導くことが判明した1)。この作用は活性型ビタミンD3がビタミンD受容体(VDR)を介して働くホルモン様作用とは大きく異なる。25(OH)D3は活性型ビタミンD3の1/500程度と弱いながらもVDRリガンドとして機能するためSREBP抑制を目的にマウスに25(OH)D3を10 mg/kg連日投与すると重篤な高カルシウム血症(VDR作用)を引き起こして短命に終わる。
そこで25(OH)D3のA環部変換が研究され,VDRに結合せずSREBP/SCAP系選択的に作用する小分子群が合成された2)。ビタミンD3の責任代謝酵素CYP24A1への代謝抵抗性向上を意図して側鎖部へのフッ素原子導入も行われ,高選択的SREBP阻害活性を示し,かつ病態モデルマウスで毒性なく治療効果(10 mg/kg)を認めるビタミンD誘導体KK-052が誕生した2)。SREBP/SCAP系への高選択的阻害は,脂肪肝,脂質代謝異常症,あるいはがん等の疾患において,ターゲット細胞における脂質合成を停止させて細胞の維持に必要な脂質を枯渇させるというユニークなプロファイルを有する治療薬の可能性が期待される3)

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1) L. Asano et al., Cell Chem. Biol. 2017, 24, 207.
2) F. Kawagoe et al., J. Med. Chem. 2021, 64, 5689.
3) US-2022-0081381-A1(公開日:2022年3月17日)

橘高敦史 帝京大学薬学部