日本化学会

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望みの人工抗体を迅速に創る

Rapid Generation of Antibody-like Proteins

人工抗体とは,非免疫グロブリンタンパク質を骨格とした抗体様タンパク質である。抗体に比べて小さく,微生物で大量生産が可能なものが多い。これまで様々な抗体様タンパク質が提案されており,抗体に変わる新規モダリティとしてその開発が精力的に進められている1)
一般的に,人工抗体の創製にはファージ提示法やmRNA提示法など,進化分子工学が使用される。しかし,ファージ提示法は多様性が108~1011程度に制限されること,mRNA提示法は操作が複雑で時間がかかることが問題であった。
筆者らは,mRNA提示法を改良して,人工抗体を高速に創製する方法であるTRAP(transcription-translation coupled with association of puromycin linker)提示法を開発した2)。本方法により,SARS-CoV-2スパイクタンパク質に対してKD=0.4~2 nMの強い結合力を持つ3種類の人工抗体の配列を,わずか4日で同定した。さらに,得られた人工抗体をTRAP提示法を用いて親和性成熟することでKD<10 pMとした3)。本人工抗体は(IC50=46 pMと,混合中和抗体薬であるロナプリーブと比べても(IC50=81.8 pM)遜色ない中和活性をもっていた。
今後,多様な人工抗体骨格とTRAP提示法を組み合わせ,様々な標的に結合する人工抗体を創製することで,新たな診断薬・治療薬の開発ができると期待される。

chem76-02-02.jpg 1) X. Wang et al., Nucleic Acids Res. 2022, 50, D560.
2) T. Kondo et al., Sci. Adv. 2020, 6, eabd3916.
3) T. Kondo et al., Life Sci. Alliance 2022, 5, e202101322.

村上 裕 名古屋大学大学院工学研究科