日本化学会

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画像処理による化学分析の新潮流

New Wave of Chemical Analysis Utilizing Image Processing

機器分析は精緻な化学分析を可能にし,学術的にも産業的にも有用な手法である。一方で,膨大な試料の分析には装置の高速化やマンパワーが求められ,そのビッグデータから新たな価値を見いだすためにはコンピュータによるデータ処理に頼らざるを得ない。そのため,近年試料やスペクトルデータなど画像化されたデータの数学的処理により,定性および定量を実現する化学分析法が台頭している。
画像処理を用いた化学分析の代表例として,色彩情報をパラメータとして用いる比色分析の精緻化が挙げられる。しかし,色彩情報はスペクトルではないため,物質の同定への利用は困難である。そこで,Minamiらはアレイ型の紙基板分析デバイス上で複数の分子認識機構による比色分析を行い,画像処理と多変量解析によりすべてのアレイのデータを処理することで糖類の定量と同定を実現した1)
また,画像データの利用の利点として空間的な情報も含まれることが挙げられる。Inagawaらは,主成分分析を利用したRGB-スペクトル変換法を構築することで色彩情報をスペクトル的に扱う手法を確立し,顕微画像の色彩情報から界面における物質分布やそのサブ秒オーダーでの経時変化の測定に成功した2)
画像処理の対象は決して試料画像だけではない。例えば,Jirayupatらは2次元マススペクトルを画像として捉え,画像処理と機械学習によるピーク判別を組み合わせることで呼気中のバイオマーカーのppbレベルでの同定を実現した3)
1枚の画像から得られるデジタル情報は,DX化された社会における化学計測の新たなパラメータの1つとして今後も積極的に用いられることであろう。

chem76-02-03.jpg1) T. Minami et al., Chem. Lett. 2021, 50, 987.
2) A. Inagawa et al., Anal. Chim. Acta 2021, 1182, 338952.
3) C. Jirayupat et al., Anal. Chem. 2021, 93, 14708.

稲川有徳 宇都宮大学工学部