日本化学会

閉じる

トップ >化学を知る・楽しむ >ディビジョン・トピックス >コロイド・界面化学 >原子間力顕微鏡による液体ガリウムと固体合金界面の原子スケール構造解析

原子間力顕微鏡による液体ガリウムと固体合金界面の原子スケール構造解析

Atomic-Scale Structural Analysis on the Interfaces between Molten Gallium and Solid Alloys by Atomic Force Microscopy

原子間力顕微鏡(AFM)によって様々な界面の原子スケールでの構造が解明されてきた。水中におけるAFM計測も可能になっており,生体膜やDNAの構造や水和構造の分析もできるようになっている。また,様々な水溶液・油・イオン液体中での測定も可能になっている。このようにAFM技術の発展は目覚ましいが,液体金属中における原子スケールでのAFM測定はこれまで報告がなかった。その主な原因は,液中に入射するレーザー光が液体金属の不透明性により,浸漬されたフォースセンサ(Siカンチレバー)に届かない点である。また,液体金属の粘度が比較的高いことも原子分解能を実現する上での障壁になっていた。
しかし,近年の一井ら1)の研究開発により,液体金属中でのAFM計測が可能となった(文献1中の図を改訂した右図を参照)。図中の(a)は液体Ga中におけるAuGa2固体合金の表面形状像,(b)は液体Gaと固体AuGa2界面の周波数シフトマップ(これは探針-AuGa2間のフォースマップに変換可で,溶媒和構造取得前の元データにもなる)であり,どちらも原子分解能が達成されている。
これまで電解質水溶液中におけるコロイド粒子間の相互作用がDerjaguin-Landau-Verwey-Overbeek理論や実験結果を通して理解され,その知見は工業的にも活躍してきた。ゆえに類推すれば,液体金属中における相互作用の知見もまた工業的に活躍すると期待される。一井らの研究成果は,コロイド粒子の固体金属への分散やより高性能な固体金属の開発に留まらず,液体金属電池や液体金属中で形成される窒化ガリウム結晶やダイヤモンド等の開発にも役立つと期待される。

chem76-02-04.jpg


1) T. Ichii et al., J. Phys. Chem. C 2021, 125, 26201.

天野健一 名城大学農学部