金属の溶解析出反応を蓄電池の負極反応として利用することができれば,容量密度が大きく向上することから,蓄電池の小型化が可能である。しかしながら,リチウム金属を負極に用いる場合,充電時にウィスカー状の析出形態を示し,内部短絡を誘発することから実用化に至っていない。一方,マグネシウム金属は大電流でもフラットな析出形態を示すことから,次世代蓄電池用負極として期待されている1)。
マグネシウムを蓄電池に用いる場合の課題は,マグネシウムイオンとアニオンとの強い相互作用によって固相内拡散が極めて遅い点である。これを解決するために筆者らは,オープンなトンネル構造を有するオランダイト型α-MnO2が2.0 V vs. Mg程度の電位で約200 mAhg-1の高い可逆容量を示すことを見いだし正極活物質として提案してきた2)。また,Mg3Bi2 Zintl相の場合,redox電位は低いものの四面体位置を占有するMg2+イオン伝導パスの活性化障壁が低く,室温でも理論容量に近い380 mAhg-1以上の高容量を示すことを報告している3)。
近年では,正極活物質をナノ粒子化して拡散距離を短くすることで,室温において3.0 V vs. Mgの高電位でも作動する準安定立方晶スピネル相を持つ正極活物質などが報告されている。筆者らのグループでも,ナノ粒子化したオリビン型正極の充放電反応が,二段階の二相反応によって進行することを見いだした。このように,電極活物質のナノ構造制御によって,電池特性の向上やこれまでに観測できなかった酸化・還元反応の反応機構が解明できる。今後の発展が大いに期待できる分野である。
1) M. Matsui, J. Power Sources 2011, 196, 7048.
2) R. Zhang et al., Electrochem. Commun. 2012, 23, 110.
3) M. Matsui et al., Frontiers in Chemistry. 2019, 7, 7.
松井雅樹 北海道大学大学院理学研究院